米国、スパイ衛星をミサイルで撃墜

例によっていろいろスルーしまくってるけど、これについては、ちょっと書いておいた方がいいだろう。

米国、スパイ衛星をミサイルで撃墜

2006年12月に打ち上げられた米国の大型スパイ衛星(USA193)は、打ち上げ直後に地上管制センターとの通信が途絶し、コントロール不能のまま衛星軌道上を漂流することになりました。

USA193は、2007年3月6日頃地上に落下するものと見られ、ロケット燃料として搭載されている「ヒドラジン」の環境汚染などが懸念されていました。

これに対しアメリカ国防局は、ミサイルによるスパイ衛星の破壊を決定。2月20日午前10時26分頃、イージス巡洋艦『レイク・エリー』がハワイ沖から弾道ミサイル防衛用の迎撃ミサイル『SM3』を発射。高度約247kmで目標に命中し、衛星は大破したと発表されました。

なお、このミサイル攻撃によりヒドラジンの大半は燃焼し、衛星の破片の大半は48時間以内に大気圏に落下して燃え尽きると予想されています。

中国の衛星破壊実験との違い

2007年1月に、中国が気象衛星を弾道ミサイルで破壊するという実験を行い、当ブログでも話題にしました。

この実験で破壊された衛星の高度は約850km。衛星の破片は現在もなお軌道上を回っています。一方、今回の米国のスパイ衛星は高度約250kmとかなりの低軌道で破壊されたため希薄な大気の影響を受けやすく、短期間で落下すると考えられています。少なくてもデブリ被害に関しては、区別して語られるべきでしょう。

「ヒドラジン」とは何か?

まず、衛星に搭載されている「ヒドラジン」は腐蝕性の強い毒物です。Wikipediaの記述によれば「気化吸引、皮膚への接触ともに腐食をもたらし全身を骨までドロドロに溶かす。また中毒症状をおこす。」という恐ろしさ。

なんでこんな恐ろしいものが衛星に使われるかというと、常温で液体となるため長期保存に適しているためです。例えば、H-IIAやスペースシャトルのエンジンで使われているような「液化水素/液化酸素」は、燃焼後に水(H2O)しか生成されずこの点では環境に優しい燃料ですが、極低温状態を維持しないと気化してしまうという欠点が有ります。

お祭りで買ったゴム風船が、翌朝になってみると萎んでしまっているのを見たことがあるでしょうか?あのゴム風船にはヘリウムガスが使われています。ヘリウム分子は極めて小さく、ゴム膜のわずかな隙間からも外部に逃げ出してしまうために、一晩で風船はしぼんでしまうのです。

水素もまた極めて分子が小さく、保持することが困難な物質です。この点から、数年間の寿命のある人工衛星の燃料としては適しません。このような理由から、ロケットや衛星に使われる燃料は、様々な種類のものが使い分けられているのです。

今回の衛星の場合、本来であれば衛星軌道上で数年間運用され、その間に「ヒドラジン」を使い切るはずでした。しかし、打ち上げ直後にトラブルが発生したため、燃料をまったく使うことなしに地球に落下することになってしまったのです。

衛星破壊は適切な処置だったのか?

個人的には適切だったのではないかと思います。

ヒドラジンは猛毒ではありますが、分解しやすい物質でもあり、衛星が海洋に落ちるのであれば、それほど深刻なダメージは発生しなかったかもしれません。しかし今回は、一切のコントロールが不可能であり、陸地への墜落の可能性も高かったようなので、リスクを下げるという意味で事前に破壊してしまうことに妥当性はあると思います。

一方、「米国がスパイ衛星の部品を多国に捕獲されることを恐れたのだ」という見方もありますが、確かにそうゆう面もあっただろうとは思います。ただ、軍用機器一般に通じる話であって、特にこの衛星に特別な機器が搭載されていたと信じる理由は特になさそうです。

ミサイル防衛(MD)との関係

第二次世界大戦後、米ソ両国は核弾頭を搭載した長距離ミサイルの開発に巨額の資金を投じました。この結果、両国は戦略核兵器を自国から直接敵国に打ち込むことが可能となりました。このことにより、相互確証破壊(どちらが先に攻撃しても双方が滅亡する)を前提とした「核による平和」の時代が始まります。

この強力すぎる矛に対して盾を強化するために、自国に飛来する弾頭ミサイルを迎撃するミサイルの研究も行われるようになります。現代においてこれはミサイル防衛(MD)と呼ばれ、早期警戒衛星による弾道ミサイルの発射探知し、航空機、艦艇、固定兵器などを組織化したシステムで、弾道ミサイルを破壊することを目標としています。

今回、衛星破壊に使用されたミサイルは SM-3 (スタンダードミサイル)をカスタマイズしたものですが、SM-3 もまた MD の一部として開発されたイージス艦から発射可能な迎撃ミサイルです。

このことから、今回の衛星破壊を MD の能力をアピールするデモンストレーションの要素が強かったという指摘もあるようです。まぁ、確かに、国外に対して米国の軍事力を誇示すると同時に、国内に対して予算獲得のためのアピールなんて側面もあったかもしれません。

また、アピールの相手にには日本も含まれていると考えるべきでしょう。

1998年に北朝鮮からテポドンが発射されたことを契機に、日本でも弾道ミサイルに対する防衛の必要性が強く意識されるようになりました。これを受けて、日本でも2004年から弾道ミサイル防衛のため装備の調達が開始されています。MD システム対応のためにイージス艦の改修なども進んでおり、改修後は SM-3 を運用可能になるようです。

これと平行して、日米共同で SM-3 の改良に関する研究が進められており、その成果のひとつは先ごろネットで話題になった「キネティック弾頭要素」です。

先日、試射にも成功した模様。

で、今回の衛星破壊のようなわかりやすい成果があると、今後日本も予算をつけやすくなるよね、という配慮はあったかもしれません。

余談ですが、先日漁船との衝突事故を起こしたイージス艦「あたご」ですが、ハワイでの SM-2 発射試験の帰りだった模様。SM-2 は大気中を飛ぶ航空機やミサイルの迎撃を目的としたもので、これも MD の一部です。ちなみに、「あたご」にはSM-3搭載能力はないようです。

by Myfuna at 2008年02月23日 03:53 Comment(0) TrackBack(0)
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